図書室から~本の紹介~
投稿日: 2025年10月22日

図書室から~本の紹介~
『スラムに水は流れない』
ヴァルシャ・バジャージ 著 村上 利佳 訳 あすなろ書房
インドの大都市ムンバイにあるスラム(主に貧しい生活状態の人々が密集して暮らす地域のこと)には、ムンバイの人口の40パーセントが住んでいます。しかし、人口に対して上下水道などのインフラの整備が追いついていないため、水は市全体の5パーセントにしか供給されていません。水は、この地域においては金にも勝る貴重なものなのです。
その上、州政府から正式に認定されたスラム街に対しては、水を供給する法的義務があります。しかし、認定されていないスラム街に対しては、その義務はありません。この非認定のスラム街に目をつけたのが、水マフィア。真夜中に、井戸や給水車から水を盗み、水に飢えている人々に高額な値で水を売ることによって莫大な利益を得ているのです。こうした、現代社会が抱える問題を題材として描かれた物語が、この『スラムに水は流れない』なのです。
ある日、水マフィアが、真夜中に窃盗を働いているところを偶然目撃してしまった、ミンニとサンジャイ。身の危険を感じ、兄のサンジャイは田舎に身を隠します。時を同じくして、汚染された水によって彼らの母親も体を壊してしまうのです。家族を支えるため、残された12歳の少女ミンニは、母の仕事を受け継ぎ、自身の勉強にも情熱を燃やします。そして、置かれた状況に留まるのではなく、水問題の解決作を思案し、貧困から抜け出そうと挑戦をし続けるのです。
現在、社会が抱える深刻な問題が、12歳の少女が事件の謎を解き明かすストーリーに内包され、物語としての魅力と、問題提起のバランスがとても優れた作品であると感じられます。
第71回青少年読書感想文全国コンクール課題図書に選出されています。